-
Notifications
You must be signed in to change notification settings - Fork 0
/
README.EXT.jp
1188 lines (801 loc) · 31.5 KB
/
README.EXT.jp
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
76
77
78
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
100
101
102
103
104
105
106
107
108
109
110
111
112
113
114
115
116
117
118
119
120
121
122
123
124
125
126
127
128
129
130
131
132
133
134
135
136
137
138
139
140
141
142
143
144
145
146
147
148
149
150
151
152
153
154
155
156
157
158
159
160
161
162
163
164
165
166
167
168
169
170
171
172
173
174
175
176
177
178
179
180
181
182
183
184
185
186
187
188
189
190
191
192
193
194
195
196
197
198
199
200
201
202
203
204
205
206
207
208
209
210
211
212
213
214
215
216
217
218
219
220
221
222
223
224
225
226
227
228
229
230
231
232
233
234
235
236
237
238
239
240
241
242
243
244
245
246
247
248
249
250
251
252
253
254
255
256
257
258
259
260
261
262
263
264
265
266
267
268
269
270
271
272
273
274
275
276
277
278
279
280
281
282
283
284
285
286
287
288
289
290
291
292
293
294
295
296
297
298
299
300
301
302
303
304
305
306
307
308
309
310
311
312
313
314
315
316
317
318
319
320
321
322
323
324
325
326
327
328
329
330
331
332
333
334
335
336
337
338
339
340
341
342
343
344
345
346
347
348
349
350
351
352
353
354
355
356
357
358
359
360
361
362
363
364
365
366
367
368
369
370
371
372
373
374
375
376
377
378
379
380
381
382
383
384
385
386
387
388
389
390
391
392
393
394
395
396
397
398
399
400
401
402
403
404
405
406
407
408
409
410
411
412
413
414
415
416
417
418
419
420
421
422
423
424
425
426
427
428
429
430
431
432
433
434
435
436
437
438
439
440
441
442
443
444
445
446
447
448
449
450
451
452
453
454
455
456
457
458
459
460
461
462
463
464
465
466
467
468
469
470
471
472
473
474
475
476
477
478
479
480
481
482
483
484
485
486
487
488
489
490
491
492
493
494
495
496
497
498
499
500
501
502
503
504
505
506
507
508
509
510
511
512
513
514
515
516
517
518
519
520
521
522
523
524
525
526
527
528
529
530
531
532
533
534
535
536
537
538
539
540
541
542
543
544
545
546
547
548
549
550
551
552
553
554
555
556
557
558
559
560
561
562
563
564
565
566
567
568
569
570
571
572
573
574
575
576
577
578
579
580
581
582
583
584
585
586
587
588
589
590
591
592
593
594
595
596
597
598
599
600
601
602
603
604
605
606
607
608
609
610
611
612
613
614
615
616
617
618
619
620
621
622
623
624
625
626
627
628
629
630
631
632
633
634
635
636
637
638
639
640
641
642
643
644
645
646
647
648
649
650
651
652
653
654
655
656
657
658
659
660
661
662
663
664
665
666
667
668
669
670
671
672
673
674
675
676
677
678
679
680
681
682
683
684
685
686
687
688
689
690
691
692
693
694
695
696
697
698
699
700
701
702
703
704
705
706
707
708
709
710
711
712
713
714
715
716
717
718
719
720
721
722
723
724
725
726
727
728
729
730
731
732
733
734
735
736
737
738
739
740
741
742
743
744
745
746
747
748
749
750
751
752
753
754
755
756
757
758
759
760
761
762
763
764
765
766
767
768
769
770
771
772
773
774
775
776
777
778
779
780
781
782
783
784
785
786
787
788
789
790
791
792
793
794
795
796
797
798
799
800
801
802
803
804
805
806
807
808
809
810
811
812
813
814
815
816
817
818
819
820
821
822
823
824
825
826
827
828
829
830
831
832
833
834
835
836
837
838
839
840
841
842
843
844
845
846
847
848
849
850
851
852
853
854
855
856
857
858
859
860
861
862
863
864
865
866
867
868
869
870
871
872
873
874
875
876
877
878
879
880
881
882
883
884
885
886
887
888
889
890
891
892
893
894
895
896
897
898
899
900
901
902
903
904
905
906
907
908
909
910
911
912
913
914
915
916
917
918
919
920
921
922
923
924
925
926
927
928
929
930
931
932
933
934
935
936
937
938
939
940
941
942
943
944
945
946
947
948
949
950
951
952
953
954
955
956
957
958
959
960
961
962
963
964
965
966
967
968
969
970
971
972
973
974
975
976
977
978
979
980
981
982
983
984
985
986
987
988
989
990
991
992
993
994
995
996
997
998
999
1000
.\" README.EXT - -*- Text -*- created at: Mon Aug 7 16:45:54 JST 1995
Rubyの拡張ライブラリの作り方を説明します.
1.基礎知識
Cの変数には型があり,データには型がありません.ですから,た
とえばポインタをintの変数に代入すると,その値は整数として取
り扱われます.逆にRubyの変数には型がなく,データに型がありま
す.この違いのため,CとRubyは相互に変換しなければ,お互いの
データをアクセスできません.
RubyのデータはVALUEというCの型で表現されます.VALUE型のデー
タはそのデータタイプを自分で知っています.このデータタイプと
いうのはデータ(オブジェクト)の実際の構造を意味していて,Ruby
のクラスとはまた違ったものです.
VALUEからCにとって意味のあるデータを取り出すためには
(1) VALUEのデータタイプを知る
(2) VALUEをCのデータに変換する
の両方が必要です.(1)を忘れると間違ったデータの変換が行われ
て,最悪プログラムがcore dumpします.
1.1 データタイプ
Rubyにはユーザが使う可能性のある以下のタイプがあります.
T_NIL nil
T_OBJECT 通常のオブジェクト
T_CLASS クラス
T_MODULE モジュール
T_FLOAT 浮動小数点数
T_STRING 文字列
T_REGEXP 正規表現
T_ARRAY 配列
T_FIXNUM Fixnum(31bit長整数)
T_HASH 連想配列
T_STRUCT (Rubyの)構造体
T_BIGNUM 多倍長整数
T_FILE 入出力
T_TRUE 真
T_FALSE 偽
T_DATA データ
その他に内部で利用されている以下のタイプがあります.
T_ICLASS
T_MATCH
T_VARMAP
T_SCOPE
T_NODE
ほとんどのタイプはCの構造体で実装されています.
1.2 VALUEのデータタイプをチェックする
ruby.hではTYPE()というマクロが定義されていて,VALUEのデータ
タイプを知ることが出来ます.TYPE()マクロは上で紹介したT_XXXX
の形式の定数を返します.VALUEのデータタイプに応じて処理する
場合には,TYPE()の値で分岐することになります.
switch (TYPE(obj)) {
case T_FIXNUM:
/* FIXNUMの処理 */
break;
case T_STRING:
/* 文字列の処理 */
break;
case T_ARRAY:
/* 配列の処理 */
break;
default:
/* 例外を発生させる */
rb_raise(rb_eTypeError, "not valid value");
break;
}
それとデータタイプをチェックして,正しくなければ例外を発生す
る関数が用意されています.
void Check_Type(VALUE value, int type)
この関数はvalueがtypeで無ければ,例外を発生させます.引数と
して与えられたVALUEのデータタイプが正しいかどうかチェックす
るためには,この関数を使います.
FIXNUMとNILに関してはより高速な判別マクロが用意されています.
FIXNUM_P(obj)
NIL_P(obj)
1.3 VALUEをCのデータに変換する
データタイプがT_NIL, T_FALSE, T_TRUEである時,データはそれぞ
れnil, false, trueです.このデータタイプのオブジェクトはひと
つずつしか存在しません.
データタイプがT_FIXNUMの時,これは31bitのサイズを持つ整数で
す.FIXNUMをCの整数に変換するためにはマクロ「FIX2INT()」を使
います.それから,FIXNUMに限らずRubyのデータを整数に変換する
「NUM2INT()」というマクロがあります.このマクロはデータタイ
プのチェック無しで使えます(整数に変換できない場合には例外が
発生する).
同様にチェック無しで使える変換マクロはdoubleを取り出す
「NUM2DBL()」とchar*を取り出す「STR2CSTR()」があります.
それ以外のデータタイプは対応するCの構造体があります.対応す
る構造体のあるVALUEはそのままキャスト(型変換)すれば構造体の
ポインタに変換できます.
構造体は「struct RXxxxx」という名前でruby.hで定義されていま
す.例えば文字列は「struct RString」です.実際に使う可能性が
あるのは文字列と配列くらいだと思います.
ruby.hでは構造体へキャストするマクロも「RXXXXX()」(全部大文
字にしたもの)という名前で提供されています(例: RSTRING()).
例えば,文字列strの長さを得るためには「RSTRING(str)->len」と
し,文字列strをchar*として得るためには「RSTRING(str)->ptr」
とします.配列の場合には,それぞれ「RARRAY(ary)->len」,
「RARRAY(ary)->ptr」となります.
Rubyの構造体を直接アクセスする時に気をつけなければならないこ
とは,配列や文字列の構造体の中身は参照するだけで,直接変更し
ないことです.直接変更した場合,オブジェクトの内容の整合性が
とれなくなって,思わぬバグの原因になります.
1.4 CのデータをVALUEに変換する
VALUEの実際の構造は
* FIXNUMの場合
1bit左シフトして,LSBを立てる.
* その他のポインタの場合
そのままVALUEにキャストする.
となっています.よって,LSBをチェックすればVALUEがFIXNUMかど
うかわかるわけです(ポインタのLSBが立っていないことを仮定して
いる).
ですから,FIXNUM以外のRubyのオブジェクトの構造体は単にVALUE
にキャストするだけでVALUEに変換出来ます.ただし,任意の構造
体がVALUEにキャスト出来るわけではありません.キャストするの
はRubyの知っている構造体(ruby.hで定義されているstruct RXxxx
のもの)だけです.
FIXNUMに関しては変換マクロを経由する必要があります.Cの整数
からVALUEに変換するマクロは以下のものがあります.必要に応じ
て使い分けてください.
INT2FIX() もとの整数が31bit以内に収まる自信がある時
INT2NUM() 任意の整数からVALUEへ
INT2NUM()は整数がFIXNUMの範囲に収まらない場合,Bignumに変換
してくれます(が,少し遅い).
1.5 Rubyのデータを操作する
先程も述べた通り,Rubyの構造体をアクセスする時に内容の更新を
行うことは勧められません.で,Rubyのデータを操作する時には
Rubyが用意している関数を用いてください.
ここではもっとも使われるであろう文字列と配列の生成/操作を行
い関数をあげます(全部ではないです).
文字列に対する関数
rb_str_new(char *ptr, int len)
新しいRubyの文字列を生成する.
rb_str_new2(char *ptr)
Cの文字列からRubyの文字列を生成する.この関数の機能は
rb_str_new(ptr, strlen(ptr))と同等である.
rb_tainted_str_new(char *ptr, int len)
汚染マークが付加された新しいRubyの文字列を生成する.外部
からのデータに基づく文字列には汚染マークが付加されるべき
である.
rb_tainted_str_new2(char *ptr)
Cの文字列から汚染マークが付加されたRubyの文字列を生成する.
rb_str_cat(VALUE str, char *ptr, int len)
Rubyの文字列strにlenバイトの文字列ptrを追加する.
配列に対する関数
rb_ary_new()
要素が0の配列を生成する.
rb_ary_new2(int len)
要素が0の配列を生成する.len要素分の領域をあらかじめ割り
当てておく.
rb_ary_new3(int n, ...)
引数で指定したn要素を含む配列を生成する.
rb_ary_new4(int n, VALUE *elts)
配列で与えたn要素の配列を生成する.
rb_ary_push(VALUE ary, VALUE val)
rb_ary_pop(VALUE ary)
rb_ary_shift(VALUE ary)
rb_ary_unshift(VALUE ary, VALUE val)
rb_ary_entry(VALUE ary, int idx)
Arrayの同名のメソッドと同じ働きをする関数.第1引数は必ず
配列でなければならない.
2.Rubyの機能を使う
原理的にRubyで書けることはCでも書けます.RubyそのものがCで記
述されているんですから,当然といえば当然なんですけど.ここで
はRubyの拡張に使うことが多いだろうと予測される機能を中心に紹
介します.
2.1 Rubyに機能を追加する
Rubyで提供されている関数を使えばRubyインタプリタに新しい機能
を追加することができます.Rubyでは以下の機能を追加する関数が
提供されています.
* クラス,モジュール
* メソッド,特異メソッドなど
* 定数
では順に紹介します.
2.1.1 クラス/モジュール定義
クラスやモジュールを定義するためには,以下の関数を使います.
VALUE rb_define_class(char *name, VALUE super)
VALUE rb_define_module(char *name)
これらの関数は新しく定義されたクラスやモジュールを返します.
メソッドや定数の定義にこれらの値が必要なので,ほとんどの場合
は戻り値を変数に格納しておく必要があるでしょう.
クラスやモジュールを他のクラスの内部にネストして定義する時に
は以下の関数を使います.
VALUE rb_define_class_under(VALUE outer, char *name, VALUE super)
VALUE rb_define_module_under(VALUE outer, char *name)
2.1.2 メソッド/特異メソッド定義
メソッドや特異メソッドを定義するには以下の関数を使います.
void rb_define_method(VALUE klass, char *name,
VALUE (*func)(), int argc)
void rb_define_singleton_method(VALUE object, char *name,
VALUE (*func)(), int argc)
念のため説明すると「特異メソッド」とは,その特定のオブジェク
トに対してだけ有効なメソッドです.RubyではよくSmalltalkにお
けるクラスメソッドとして,クラスに対する特異メソッドが使われ
ます.
これらの関数の argcという引数はCの関数へ渡される引数の数(と
形式)を決めます.argcが0以上の時は関数に引き渡す引数の数を意
味します.16個以上の引数は使えません(が,要りませんよね,そ
んなに).実際の関数には先頭の引数としてselfが与えられますの
で,指定した数より1多い引数を持つことになります.
argcが負の時は引数の数ではなく,形式を指定したことになります.
argcが-1の時は引数を配列に入れて渡されます.argcが-2の時は引
数はRubyの配列として渡されます.
メソッドを定義する関数はもう二つあります.ひとつはprivateメ
ソッドを定義する関数で,引数はrb_define_method()と同じです.
void rb_define_private_method(VALUE klass, char *name,
VALUE (*func)(), int argc)
privateメソッドとは関数形式でしか呼び出すことの出来ないメソッ
ドです.
もうひとつはモジュール関数を定義するものです.モジュール関数
とはモジュールの特異メソッドであり,同時にprivateメソッドで
もあるものです.例をあげるとMathモジュールのsqrt()などがあげ
られます.このメソッドは
Math.sqrt(4)
という形式でも
include Math
sqrt(4)
という形式でも使えます.モジュール関数を定義する関数は以下の
通りです.
void rb_define_module_function(VALUE module, char *name,
VALUE (*func)(), int argc)
関数的メソッド(Kernelモジュールのprivate method)を定義するた
めの関数は以下の通りです.
void rb_define_global_function(char *name, VALUE (*func)(), int argc)
メソッドの別名を定義するための関数は以下の通りです。
void rb_define_alias(VALUE module, const char* new, const char* old);
2.1.3 定数定義
拡張ライブラリが必要な定数はあらかじめ定義しておいた方が良い
でしょう.定数を定義する関数は二つあります.
void rb_define_const(VALUE klass, char *name, VALUE val)
void rb_define_global_const(char *name, VALUE val)
前者は特定のクラス/モジュールに属する定数を定義するもの,後
者はグローバルな定数を定義するものです.
2.2 Rubyの機能をCから呼び出す
既に『1.5 Rubyのデータを操作する』で一部紹介したような関数を
使えば,Rubyの機能を実現している関数を直接呼び出すことが出来
ます.
# このような関数の一覧表はいまのところありません.ソースを見
# るしかないですね.
それ以外にもRubyの機能を呼び出す方法はいくつかあります.
2.2.1 Rubyのプログラムをevalする
CからRubyの機能を呼び出すもっとも簡単な方法として,文字列で
与えられたRubyのプログラムを評価する以下の関数があります.
VALUE rb_eval_string(char *str)
この評価は現在の環境で行われます.つまり,現在のローカル変数
などを受け継ぎます.
2.2.2 IDまたはシンボル
Cから文字列を経由せずにRubyのメソッドを呼び出すこともできま
す.その前に,Rubyインタプリタ内でメソッドや変数名を指定する
時に使われているIDについて説明しておきましょう.
IDとは変数名,メソッド名を表す整数です.Rubyの中では
:識別子
でアクセスできます.Cからこの整数を得るためには関数
rb_intern(char *name)
を使います.また一文字の演算子はその文字コードがそのままシン
ボルになっています.Rubyから引数として与えられたシンボル(ま
たは文字列)をIDに変換するには以下の関数を使います.
rb_to_id(VALUE symbol)
2.2.3 CからRubyのメソッドを呼び出す
Cから文字列を経由せずにRubyのメソッドを呼び出すためには以下
の関数を使います.
VALUE rb_funcall(VALUE recv, ID mid, int argc, ...)
この関数はオブジェクトrecvのmidで指定されるメソッドを呼び出
します.その他に引数の指定の仕方が違う以下の関数もあります.
VALUE rb_funcall2(VALUE recv, ID mid, int argc, VALUE *argv)
VALUE rb_apply(VALUE recv, ID mid, VALUE args)
applyには引数としてRubyの配列を与えます.
2.2.4 変数/定数を参照/更新する
Cから関数を使って参照・更新できるのは,定数,インスタンス変
数です.大域変数は一部のものはCの大域変数としてアクセスでき
ます.ローカル変数を参照する方法は公開していません.
オブジェクトのインスタンス変数を参照・更新する関数は以下の通
りです.
VALUE rb_ivar_get(VALUE obj, ID id)
VALUE rb_ivar_set(VALUE obj, ID id, VALUE val)
idはrb_intern()で得られるものを使ってください.
定数を参照するには以下の関数を使ってください.
VALUE rb_const_get(VALUE obj, ID id)
定数を新しく定義するためには『2.1.3 定数定義』で紹介さ
れている関数を使ってください.
3.RubyとCとの情報共有
C言語とRubyの間で情報を共有する方法について解説します.
3.1 Cから参照できるRubyの定数
以下のRubyの定数はCのレベルから参照できます.
Qtrue
Qfalse
真偽値.QfalseはC言語でも偽とみなされます(つまり0).
Qnil
C言語から見た「nil」.
3.2 CとRubyで共有される大域変数
CとRubyで大域変数を使って情報を共有できます.共有できる大域
変数にはいくつかの種類があります.そのなかでもっとも良く使わ
れると思われるのはrb_define_variable()です.
void rb_define_variable(char *name, VALUE *var)
この関数はRubyとCとで共有する大域変数を定義します.変数名が
`$'で始まらない時には自動的に追加されます.この変数の値を変
更すると自動的にRubyの対応する変数の値も変わります.
またRuby側からは更新できない変数もあります.このread onlyの
変数は以下の関数で定義します.
void rb_define_readonly_variable(char *name, VALUE *var)
これら変数の他にhookをつけた大域変数を定義できます.hook付き
の大域変数は以下の関数を用いて定義します.hook付き大域変数の
値の参照や設定はhookで行う必要があります.
void rb_define_hooked_variable(char *name, VALUE *var,
VALUE (*getter)(), VALUE (*setter)())
この関数はCの関数によってhookのつけられた大域変数を定義しま
す.変数が参照された時には関数getterが,変数に値がセットされ
た時には関数setterが呼ばれる.hookを指定しない場合はgetterや
setterに0を指定します.
# getterもsetterも0ならばrb_define_variable()と同じになる.
それから,Cの関数によって実現されるRubyの大域変数を定義する
関数があります.
void rb_define_virtual_variable(char *name,
VALUE (*getter)(), VALUE (*setter)())
この関数によって定義されたRubyの大域変数が参照された時には
getterが,変数に値がセットされた時にはsetterが呼ばれます.
getterとsetterの仕様は以下の通りです.
(*getter)(ID id, void *data, struct global_entry* entry);
(*setter)(VALUE val, ID id, void *data, struct global_entry* entry);
3.3 CのデータをRubyオブジェクトにする
Cの世界で定義されたデータ(構造体)をRubyのオブジェクトとして
取り扱いたい場合がありえます.このような場合には,Dataという
RubyオブジェクトにCの構造体(へのポインタ)をくるむことでRuby
オブジェクトとして取り扱えるようになります.
Dataオブジェクトを生成して構造体をRubyオブジェクトにカプセル
化するためには,以下のマクロを使います.
Data_Wrap_Struct(klass, mark, free, ptr)
このマクロの戻り値は生成されたDataオブジェクトです.
klassはこのDataオブジェクトのクラスです.ptrはカプセル化する
Cの構造体へのポインタです.markはこの構造体がRubyのオブジェ
クトへの参照がある時に使う関数です.そのような参照を含まない
時には0を指定します.
# そのような参照は勧められません.
freeはこの構造体がもう不要になった時に呼ばれる関数です.この
関数がガーベージコレクタから呼ばれます.
Cの構造体の割当とDataオブジェクトの生成を同時に行うマクロと
して以下のものが提供されています.
Data_Make_Struct(klass, type, mark, free, sval)
このマクロの戻り値は生成されたDataオブジェクトです.
klass, mark, freeはData_Wrap_Structと同じ働きをします.type
は割り当てるC構造体の型です.割り当てられた構造体は変数sval
に代入されます.この変数の型は (type*) である必要があります.
Dataオブジェクトからポインタを取り出すのは以下のマクロを用い
ます.
Data_Get_Struct(obj, type, sval)
Cの構造体へのポインタは変数svalに代入されます.
これらのDataの使い方はちょっと分かりにくいので,後で説明する
例題を参照してください.
4.例題 - dbmパッケージを作る
ここまでの説明でとりあえず拡張ライブラリは作れるはずです.
Rubyのextディレクトリにすでに含まれているdbmライブラリを例に
して段階的に説明します.
(1) ディレクトリを作る
% mkdir ext/dbm
Ruby 1.1からは任意のディレクトリでダイナミックライブラリを作
ることができるようになりました.Rubyに静的にリンクする場合に
はRubyを展開したディレクトリの下,extディレクトリの中に拡張
ライブラリ用のディレクトリを作る必要があります.名前は適当に
選んで構いません.
(2) MANIFESTファイルを作る
% cd ext/dbm
% touch MANIFEST
拡張ライブラリのディレクトリの下にはMANIFESTというファイルが
必要なので,とりあえず空のファイルを作っておきます.後でこの
ファイルには必要なファイル一覧が入ることになります.
MANIFESTというファイルは,静的リンクのmakeの時にディレクトリ
が拡張ライブラリを含んでいるかどうか判定するために使われれて
います.ダイナミックライブラリを作る場合には必ずしも必要では
ありません.
(3) 設計する
まあ,当然なんですけど,どういう機能を実現するかどうかまず設
計する必要があります.どんなクラスをつくるか,そのクラスには
どんなメソッドがあるか,クラスが提供する定数などについて設計
します.dbmクラスについてはext/dbm.docを参照してください.
(4) Cコードを書く
拡張ライブラリ本体となるC言語のソースを書きます.C言語のソー
スがひとつの時には「ライブラリ名.c」を選ぶと良いでしょう.C
言語のソースが複数の場合には逆に「ライブラリ名.c」というファ
イル名は避ける必要があります.オブジェクトファイルとモジュー
ル生成時に中間的に生成される「ライブラリ名.o」というファイル
とが衝突するからです.
Rubyは拡張ライブラリをロードする時に「Init_ライブラリ名」と
いう関数を自動的に実行します.dbmライブラリの場合「Init_dbm」
です.この関数の中でクラス,モジュール,メソッド,定数などの
定義を行います.dbm.cから一部引用します.
--
Init_dbm()
{
/* DBMクラスを定義する */
cDBM = rb_define_class("DBM", rb_cObject);
/* DBMはEnumerateモジュールをインクルードする */
rb_include_module(cDBM, rb_mEnumerable);
/* DBMクラスのクラスメソッドopen(): 引数はCの配列で受ける */
rb_define_singleton_method(cDBM, "open", fdbm_s_open, -1);
/* DBMクラスのメソッドclose(): 引数はなし */
rb_define_method(cDBM, "close", fdbm_close, 0);
/* DBMクラスのメソッド[]: 引数は1個 */
rb_define_method(cDBM, "[]", fdbm_fetch, 1);
:
/* DBMデータを格納するインスタンス変数名のためのID */
id_dbm = rb_intern("dbm");
}
--
DBMライブラリはdbmのデータと対応するオブジェクトになるはずで
すから,Cの世界のdbmをRubyの世界に取り込む必要があります.
dbm.cではData_Make_Structを以下のように使っています.
--
struct dbmdata {
int di_size;
DBM *di_dbm;
};
obj = Data_Make_Struct(klass, struct dbmdata, 0, free_dbm, dbmp);
--
ここではdbmstruct構造体へのポインタをDataにカプセル化してい
ます.DBM*を直接カプセル化しないのはclose()した時の処理を考
えてのことです.
Dataオブジェクトからdbmstruct構造体のポインタを取り出すため
に以下のマクロを使っています.
--
#define GetDBM(obj, dbmp) {\
Data_Get_Struct(obj, struct dbmdata, dbmp);\
if (dbmp->di_dbm == 0) closed_dbm();\
}
--
ちょっと複雑なマクロですが,要するにdbmdata構造体のポインタ
の取り出しと,closeされているかどうかのチェックをまとめてい
るだけです.
DBMクラスにはたくさんメソッドがありますが,分類すると3種類の
引数の受け方があります.ひとつは引数の数が固定のもので,例と
してはdeleteメソッドがあります.deleteメソッドを実装している
fdbm_delete()はこのようになっています.
--
static VALUE
fdbm_delete(obj, keystr)
VALUE obj, keystr;
{
:
}
--
引数の数が固定のタイプは第1引数がself,第2引数以降がメソッド
の引数となります.
引数の数が不定のものはCの配列で受けるものとRubyの配列で受け
るものとがあります.dbmライブラリの中で,Cの配列で受けるもの
はDBMのクラスメソッドであるopen()です.これを実装している関
数fdbm_s_open()はこうなっています.
--
static VALUE
fdbm_s_open(argc, argv, klass)
int argc;
VALUE *argv;
VALUE klass;
{
:
if (rb_scan_args(argc, argv, "11", &file, &vmode) == 1) {
mode = 0666; /* default value */
}
:
}
--
このタイプの関数は第1引数が与えられた引数の数,第2引数が与え
られた引数の入っている配列になります.selfは第3引数として与
えられます.
この配列で与えられた引数を解析するための関数がopen()でも使わ
れているrb_scan_args()です.第3引数に指定したフォーマットに
従い,第4変数以降に指定した変数に値を代入してくれます.この
フォーマットは,第1文字目が省略できない引数の数,第2文字目が
省略できる引数の数,第3文字目が対応する相手が無いあまりの引
数があるかどうかを示す"*"です.2文字目と3文字目は省略できま
す.dbm.cの例では,フォーマットは"11"ですから,引数は最低1つ
で,2つまで許されるという意味になります.省略されている時の
変数の値はnil(C言語のレベルではQnil)になります.
Rubyの配列で引数を受け取るものはindexesがあります.実装はこ
うです.
--
static VALUE
fdbm_indexes(obj, args)
VALUE obj, args;
{
:
}
--
第1引数はself,第2引数はRubyの配列です.
** 注意事項
Rubyと共有はしないがRubyのオブジェクトを格納する可能性のある
Cの大域変数は以下の関数を使ってRubyインタプリタに変数の存在
を教えてあげてください.でないとGCでトラブルを起こします.
void rb_global_variable(VALUE *var)
(5) extconf.rbを用意する
Makefileを作る場合の雛型になるextconf.rbというファイルを作り
ます.extconf.rbはライブラリのコンパイルに必要な条件のチェッ
クなどを行うことが目的です.まず,
require 'mkmf'
をextconf.rbの先頭に置きます.extconf.rbの中では以下のRuby関
数を使うことが出来ます.
have_library(lib, func): ライブラリの存在チェック
have_func(func, header): 関数の存在チェック
have_header(header): ヘッダファイルの存在チェック
create_makefile(target): Makefileの生成
以下の変数を使うことができます.
$CFLAGS: コンパイル時に追加的に指定するフラグ(-Iなど)
$LDFLAGS: リンク時に追加的に指定するフラグ(-Lなど)
ライブラリをコンパイルする条件が揃わず,そのライブラリをコン
パイルしない時にはcreate_makefileを呼ばなければMakefileは生
成されず,コンパイルも行われません.
(6) dependを用意する
もし,ディレクトリにdependというファイルが存在すれば,
Makefileが依存関係をチェックしてくれます.
% gcc -MM *.c > depend
などで作ることが出来ます.あって損は無いでしょう.
(7) MANIFESTファイルにファイル名を入れる
% find * -type f -print > MANIFEST
% vi MANIFEST
*.o, *~など不必要なファイル以外はMANIFESTに追加しておきます.
make時にはMANIFESTの内容は参照しませんので,空のままでも問題
は起きませんが,パッケージングの時に参照することがあるのと,
必要なファイルを区別できるので,用意しておいた方が良いでしょ
う.
(8) Makefileを生成する
Makefileを実際に生成するためには
ruby extconf.rb
とします.extconf.rbに require 'mkmf' の行がない場合にはエラー
になりますので,引数を追加して
ruby -r mkmf extconf.rb
としてください.
ディレクトリをext以下に用意した場合にはRuby全体のmakeの時に
自動的にMakefileが生成されますので,このステップは不要です.
(9) makeする
動的リンクライブラリを生成する場合にはその場でmakeしてくださ
い.必要であれば make install でインストールされます.
ext以下にディレクトリを用意した場合は,Rubyのディレクトリで
makeを実行するとMakefileを生成からmake,必要によってはそのモ
ジュールのRubyへのリンクまで自動的に実行してくれます.
extconf.rbを書き換えるなどしてMakefileの再生成が必要な時はま
たRubyディレクトリでmakeしてください.
拡張ライブラリはmake installでRubyライブラリのディレクトリの
下にコピーされます.もし拡張ライブラリと協調して使うRubyで記
述されたプログラムがあり,Rubyライブラリに置きたい場合には,
拡張ライブラリ用のディレクトリの下に lib というディレクトリ
を作り,そこに 拡張子 .rb のファイルを置いておけば同時にイン
ストールされます.
(10) デバッグ
まあ,デバッグしないと動かないでしょうね.ext/Setupにディレ
クトリ名を書くと静的にリンクするのでデバッガが使えるようにな
ります.その分コンパイルが遅くなりますけど.
(11) できあがり
後はこっそり使うなり,広く公開するなり,売るなり,ご自由にお
使いください.Rubyの作者は拡張ライブラリに関して一切の権利を
主張しません.
Appendix A. Rubyのソースコードの分類
Rubyのソースはいくつかに分類することが出来ます.このうちクラ
スライブラリの部分は基本的に拡張ライブラリと同じ作り方になっ
ています.これらのソースは今までの説明でほとんど理解できると
思います.
Ruby言語のコア
class.c
error.c
eval.c
gc.c
object.c
parse.y
variable.c
ユーティリティ関数
dln.c
regex.c
st.c
util.c
Rubyコマンドの実装
dmyext.c
inits.c
main.c
ruby.c
version.c
クラスライブラリ
array.c
bignum.c
compar.c
dir.c
enum.c
file.c
hash.c
io.c
marshal.c
math.c
numeric.c
pack.c
prec.c
process.c
random.c
range.c
re.c
signal.c
sprintf.c
string.c
struct.c
time.c
Appendix B. 拡張用関数リファレンス
C言語からRubyの機能を利用するAPIは以下の通りである.
** 型
VALUE
Rubyオブジェクトを表現する型.必要に応じてキャストして用いる.
組み込み型を表現するCの型はruby.hに記述してあるRで始まる構造
体である.VALUE型をこれらにキャストするためにRで始まる構造体
名を全て大文字にした名前のマクロが用意されている.
** 変数・定数
Qnil
定数: nilオブジェクト
Qtrue
定数: trueオブジェクト(真のデフォルト値)
Qfalse
定数: falseオブジェクト
** Cデータのカプセル化
Data_Wrap_Struct(VALUE klass, void (*mark)(), void (*free)(), void *sval)
Cの任意のポインタをカプセル化したRubyオブジェクトを返す.こ
のポインタがRubyからアクセスされなくなった時,freeで指定した
関数が呼ばれる.また,このポインタの指すデータが他のRubyオブ
ジェクトを指している場合,markに指定する関数でマークする必要
がある.
Data_Make_Struct(klass, type, mark, free, sval)
type型のメモリをmallocし,変数svalに代入した後,それをカプセ
ル化したデータを返すマクロ.
Data_Get_Struct(data, type, sval)
dataからtype型のポインタを取り出し変数svalに代入するマクロ.
** 型チェック
TYPE(value)
FIXNUM_P(value)
NIL_P(value)
void Check_Type(VALUE value, int type)
void Check_SafeStr(VALUE value)
** 型変換
FIX2INT(value)
INT2FIX(i)
NUM2INT(value)
INT2NUM(i)
NUM2DBL(value)
rb_float_new(f)
STR2CSTR(value)
rb_str_new2(s)
** クラス/モジュール定義
VALUE rb_define_class(char *name, VALUE super)
superのサブクラスとして新しいRubyクラスを定義する.
VALUE rb_define_class_under(VALUE module, char *name, VALUE super)
superのサブクラスとして新しいRubyクラスを定義し,moduleの
定数として定義する.
VALUE rb_define_module(char *name)
新しいRubyモジュールを定義する.
VALUE rb_define_module_under(VALUE module, char *name, VALUE super)
新しいRubyモジュールを定義し,moduleの定数として定義する.
void rb_include_module(VALUE klass, VALUE module)
モジュールをインクルードする.classがすでにmoduleをインク
ルードしている時には何もしない(多重インクルードの禁止).
void rb_extend_object(VALUE object, VALUE module)
オブジェクトをモジュール(で定義されているメソッド)で拡張する.
** 大域変数定義
void rb_define_variable(char *name, VALUE *var)
RubyとCとで共有するグローバル変数を定義する.変数名が`$'で
始まらない時には自動的に追加される.nameとしてRubyの識別子
として許されない文字(例えば` ')を含む場合にはRubyプログラ
ムからは見えなくなる.
void rb_define_readonly_variable(char *name, VALUE *var)
RubyとCとで共有するread onlyのグローバル変数を定義する.
read onlyであること以外はrb_define_variable()と同じ.
void rb_define_virtual_variable(char *name,
VALUE (*getter)(), VALUE (*setter)())
関数によって実現されるRuby変数を定義する.変数が参照された
時にはgetterが,変数に値がセットされた時にはsetterが呼ばれ
る.
void rb_define_hooked_variable(char *name, VALUE *var,
VALUE (*getter)(), VALUE (*setter)())
関数によってhookのつけられたグローバル変数を定義する.変数
が参照された時にはgetterが,関数に値がセットされた時には
setterが呼ばれる.getterやsetterに0を指定した時にはhookを
指定しないのと同じ事になる.
void rb_global_variable(VALUE *var)
GCのため,Rubyプログラムからはアクセスされないが, Rubyオブ
ジェクトを含む大域変数をマークする.
** 定数
void rb_define_const(VALUE klass, char *name, VALUE val)
定数を定義する.
void rb_define_global_const(char *name, VALUE val)
大域定数を定義する.
rb_define_const(cKernal, name, val)
と同じ意味.
** メソッド定義
rb_define_method(VALUE klass, char *name, VALUE (*func)(), int argc)
メソッドを定義する.argcはselfを除く引数の数.argcが-1の時,
関数には引数の数(selfを含まない)を第1引数, 引数の配列を第2
引数とする形式で与えられる(第3引数はself).argcが-2の時,
第1引数がself, 第2引数がargs(argsは引数を含むRubyの配列)と
いう形式で与えられる.
rb_define_private_method(VALUE klass, char *name, VALUE (*func)(), int argc)
privateメソッドを定義する.引数はrb_define_method()と同じ.